帰ってきたASCENT20LE試聴記 その5
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小生は多くの音楽ファンと話をする機会がありますが、
高名な割に「分からない」と言われるのが、
モーツァルトの楽曲です。
ピアノをやっていた人でも、
「モーツァルトのピアノ曲は練習曲みたい」と、
レッスン時の悪戦苦闘を思い出すのか、
あるいは高度なテクニックを持っている人には簡単すぎるのか、
「モーツァルトは不得意」という人もいました。
誰もが認める天才作曲家なのに、
どうして人気がイマイチなんだろう?
と思う方もいると思いますが、
実は小生もモーツァルトに目覚めたのは、
クラシック音楽を聞き始めてから、
ずいぶん後の方でした。
モーツァルトは、
ヨーロッパの音楽史上ではロココ時代の作曲家で、
ベートーヴェン以降の
(ベートヴェンにも初期にはロココ様式で書かれた作品は数多くあります)、
自己を主張する音楽とは異なります。
当時の貴族階級のために書かれた機会音楽と言える作品が数多く、
ロマン派以降の音楽とは、
かなり違います。
また、モーツァルトは、
作曲の中心にオペラを置いていたため、
交響曲や管弦楽曲、協奏曲、室内楽、独奏曲、声楽曲もその作品は多いにも関わらず、
「モーツァルトはオペラを聞かないと分からない」
なんて人から言われると、
少し敷居が高い音楽に感じてしまうのかもしれませんね。
オペラの方が下世話な音楽が多いのですが...(^^;。
でもまぁ、ブルックナーやマーラーを含め、
後期ロマン派の音楽が人気の今、
古典的なモーツァルトの楽曲は退屈...なんて言われるのも分かるような気がします。
小生がモーツァルトに目覚めたのは、
クラリネット奏者ザビーネ・マイヤーのLPデビュー盤となった、
モーツァルトの短い生涯では晩年の作品、
クラリネット五重奏曲でした。
ザビーネ・マイヤーはひじょうな美人で、
女性のいなかったベルリン・フィルに(現在は女性もいます)、
その才能を見込んだカラヤンが引き入れようとし、
オーケストラの団員の猛反対に会い、
カラヤンとベルリン・フィルの確執を生んだ元になりました。
でも、ベルリン・フィルのメンバー全員が、
ザビーネ・マイヤーに反対であったようではなく、
デビュー盤は、
フィルハーモニア・カルテット・ベルリンとの演奏録音です。
デジタル録音の嚆矢となったDENON PCMの録音で、
1982年のLPの音もよく、
演奏も素晴らしかったことから、
モーツァルトに目覚めるきっかけとなりました。
ザビーネ・マイヤーのクラリネットは高貴さを感じさせながらも鮮烈で、
弦楽四重奏も生き生きとして瑞々しく、
それまで聞いていたウィーンの奏者の演奏録音よりも、
随分と新鮮なイメージがありました。
第1楽章のゆったり気味のリズミカルな演奏から引き込まれ、
第2楽章ラルゲットの慰撫されるような音楽、
そして第3楽章、第4楽章まで、
一気に聞いてしまえる優れたクオリティです。
クラリネット五重奏曲を聞いていて気が付いたのは、
モーツァルトの作曲技法でした。
モーツァルトの創り出すメロディは、
必ずと言っていいほど対話をするようなフレーズが特徴です。
Aのフレーズが出たら次にA’、
Bが出たら次にB’、
そしてCに繋がって循環してゆきながら、
音楽が発展したり舞い戻ったりというソナタ形式で、
それが分かると、他の楽曲でもその方法論を当てはめることが可能です。
音楽全体というより、
その対話するようなメロディの魅力を追いかけた方が、
最初の頃はいいのかもしれません。
むろん、例外はありますが、
例えば交響曲第40番の有名な第1楽章を思い描いても、
同様のことが言えます。
小生は、
クラリネット五重奏曲から始まり、
同じ時期に書かれたクラリネット協奏曲、
晩年の後期ピアノソナタなどからモーツァルトの楽曲に浸りはじめ、
遡るように初期の楽曲を聞いてゆきました。
オペラだけは、
「フィガロの結婚」から始め、
「コシ・ファン・トゥッテ」、
「ドン・ジョヴァンニ」、
「魔笛」と聞き、
その後に「イドメネオ」や「後宮からの誘拐」を聞きましたが。
おそらく、
ザビーネ・マイヤーの新鮮なクラリネット五重奏曲を聞かなければ、
小生もなかなかモーツァルトの魅力にたどり着けなかったかもしれません。
そこを起点として、
馥郁としたウィーン情緒満載の演奏録音や、
ドイツ・オーストリア圏外の奏者による演奏録音も、
非常に面白く聞けるようになった経験があります。
最近は、大部なボックスブームみたいなところがあり、
網羅的なCDボックスのリリースが盛んです。
そのため、例えば「モーツァルト・ボックス」なんてのがあり、
「さぁ、初期の作品から順番に聞いてゆこう!」
と思うと、たぶん、きっと挫折します(^^;。
まずは網羅的にではなく、さまざまな作品から入った方がいいかもしれません。
話が遅くなりましたが、
最近、LPを中古で再入手、
CDとは少し異なる音で、
ASCENT20LEは伸びやかにザビーネ・マイヤーのクラリネットを聞かせてくれます。
非常に気持ちの良い高域の伸び具体です。
AURUMシリーズの分解能のよさというよりも、
ASCENT20LEは総合して非常に気持ちのいい音で、
和めるように同曲を聞かせてくれます。
スピーカーの存在を忘れて聞き入ってしまう...
と言った方がいいかもしれません。
フロア型スピーカーではなく、
小型のブックシェルフ型スピーカーの良い点が出ています。
ザビーネ・マイヤーのデビュー盤の後も、
ザビーネ・マイヤーの再録音を含め、
非常に多くの同曲を聞いてきましたが、
この新鮮さは何物にも代えがたい魅力を湛えています。
モーツァルトがなかなかよく分からない...
という人は、
高域特性に優れたスピーカーで、
ザビーネ・マイヤーのクラリネット五重奏曲を聞いてみることを、
それでモーツァルトに目覚めた小生はお勧めします。
kna_baka_syuzo
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